アルバイト

引きこもりがブラックなピラティスジムでトレーナーになった結果、3ヵ月でギブアップした話②

みずいろ

前回の記事では、5年以上引きこもりを続けヒマになったわたしが占い師の助言を受け、ハローワークに足を運ぶまでの経緯を書きました。 

今回は、実際にジムに応募して採用されるまでについて語っていきます。

夢のような求人との出会い

わたしのこれまでの職歴は、事務職のみ。
ハローワークに向かったこの時点では、まさかトレーナーを目指すことになるとはつゆほども思っていませんでした。

ハローワークに到着し求人を検索していると、目に飛び込んできたのは…。

「未経験者大歓迎!パーソナルジムトレーナー大募集!!」
の文字。

(未経験で…。パーソナルジムのトレーナー…!?)
わたしの胸は高鳴りました。
やってみたい!直感でそう思いました。
トレーナーなんて、自分には最も縁がない職業だと思っていたのに。

詳しく募集要項を見てみると、
・未経験者歓迎
・週2回、2時間からOK
・平日のみOK
・4か月研修あり
・人間としての成長欲求の高い方、大歓迎!人間力を磨き、ともに成長していきましょう!

とあります。

週2回、2時間からOK!?
これなら、引きこもりでも無理せず社会復帰できるかもしれない!
求人に後光が射して見えます。

人間力を磨く、と言う言葉にもワクワクしました。身体作りを通して、成長していくことができるなんてまるで夢のよう…!!

なぜこんなに気持ちが弾むのか。
それはやはり、自分は身体を動かすことが好きだから。


これまで引きこもっていた分、わたしの心は

身体を思い切り動かすこと、そして未知の世界に飛び込んで自分を試すこと


これを深く求めていたのです。

眠っていた自分のなかの何かが、目覚めた瞬間でした。

大好きな、身体を動かすということを仕事にできるかもしれない…!
はやる気持ちを抑えきれず興奮状態で求人票を印刷したわたしは、そのままハローワークを後にします。

勢いのまま、オーナーに直接電話をかける

求人票には、「オンライン自主応募可」とありました。
ハローワークで転職活動をしたことがある方はご存じだと思いますが、「自主応募可」の求人の場合、ハローワークを通さずに直接自分で企業に連絡をとって応募することが可能なのです。

ジムのホームページを見ると、まだ開業数年にも関わらずすでに3店舗も出店しています。
(このオーナー、かなりのやり手だ…!卓越した経営手腕を持っているに違いない。これはすごいジムだぞ…。)

マウスを持つ手が震えました。
躊躇なんてしていられない。わたしは、現状を変えたい!
光り輝く求人票を握りしめ、さっそくオーナーに電話をかけます。
すると…。

はいっ、〇〇ジムです!!!!!お電話、ありがとうございます!!!!!」

めちゃくちゃ明るいオーナーの声がします。
受話器越しでも伝わってくる、爽やかさ。
まるで夏のレモン缶チューハイのCMのようで、引きこもりのわたしには眩しすぎるほどです。


(さすが、人に元気を与える仕事をしている人は違うなあ。)

「お忙しいところすみませんっ!!!!!
ハローワークで求人を拝見し!!!!!ぜひ応募させていただきたくお電話いたしましたっ!!!!!」

仮にもトレーナーを志望してる身。ここで引きこもりと悟られては、面接までこぎつけません。
チャンスを逃したくない一心で必死に明るい人を演じ、普段の30倍くらいのテンションで腹の底から声を出します。

「ありがとうございます!!!では5分後にZoomで面談しましょう!!!」

ご、5分後…!?
こちとら化粧もしていないし、よれよれのジャージ姿なんですが。
さすがに心の準備が追い付きません。
「す、すみません。さすがに5分後はちょっと…。」

「そうですか!!」

聞けば、いつも朝から晩までびっしりとレッスンが埋まっており、まとまった時間がほとんどとれない状況とのこと。
無理やりお願いして、レッスンの合間の10分くらいの時間で面接をしていただくことになりました。

(こんなに忙しいなんて、人気のジムなんだなあ…。お客さんにも慕われている人格者なんだろう。)

オーナーの明るく爽やかな対応と、レッスンがびっしり詰まっているという事実に、わたしのジムへの期待はますます膨らんでいくのでした。

引きこもり、人生初のトレーナー面接に行く

いよいよ面接当日。

(ここか…。)
緊張しながら、ジムのドアを開けます。
すると…。

「こんにちは!!!!!」

そこに立っていたのは、まばゆいほどのザ・トレーナー!!!
電話の印象そのままの、爽やかで明るい笑顔。
漫画なら「ハハハハハ!」という効果音がつきそうな雰囲気です。

「こんにちは!!」
電話したときは明るい人物を装いましたが、面接でまでそれをやると後で自分の首を絞めることになる。
これは、これまでの経験で分かっていること。

取り繕わず、ありのままの自分を見せなければならない。
そうしなければ、この面接は負けだ…!
ぐっと拳に力が入ります。

中に通され、面接が始まります。

わたしが応募したのは3店舗のうちのA店舗。オーナーが常駐しているところです。
ついこの間まで男性スタッフがいたようなのですが、自衛隊を目指すとのことで退職されたそうです。

「あの、わたし、トレーナーは未経験なんですが…。」

「!!!!
そうなんですね!!!(嬉しそう)」


オーナーによると、経験者の場合すでに持論を持っていてなかなか素直に指導を聞き入れてもらえないことが多いため、むしろ未経験者に来て欲しかったとのこと。

お客さんとしてパーソナルジムに2年間通っていたこともお話すると、「じゃあ、お客さんの気持ちをよく理解できますよね!!!」オーナーはさらに嬉しそうな顔に。

シフトについてもかなり希望を聞いてもらえることや、未経験であっても4か月みっちり研修を行うので安心してデビューできるということを熱心に説明してくれました。

「女性のトレーナーは、お客さんに上から目線で指導してしまう人が多いんです!でも、みずいろさんからは人の良さが滲み出ている!きっとお客さんも安心してレッスンを受けることができると思います!」

「わたしは面接厳しいので、応募にきても落とすことが多いんですよ!!!つい先日もお断わりして。でも、みずいろさんなら大丈夫!!何も問題ありません!!!」

(なんだかすごく感触がいいぞ…!未経験でも全然問題ないみたいだし、オーナーもすごく良い人そう。これは、もしかしたら本当にここで働けるかもしれない…。)

期待する気持ちが加速します。
でも…面接が始まる前に決意していたように、取り繕わずにありのままの自分を見せなければなりません。
そうしないと、後で辛くなるのは自分なのだから。

「あの…わたし、あんまり雑談とかでお客さん盛り上げたりするの得意じゃないんです。どちらかというと大人しい方で。それでも大丈夫でしょうか?」

「全っ然問題ないですよ!!!自分がうるさいので!!!だから逆の方がいいんです!!!」

「寡黙な方がいいんですっ!!!!!」

ええええええええええええええええええ
うそおおおおお寡黙でいいのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

それを聞いた瞬間、わたしのなかでチュドーンと大きな花火が打ちあがりました。
わたしは臨機応変に相手に合わせる雑談が苦手で、それがずっとコンプレックスだったのに。
寡黙でいいだなんて…!!!
このオーナーは神だ、救世主だ…!!!

固く閉じられていた重い扉が一気に開いたら、そこには春が広がっていました。

ぽかぽかとした気持ちになり、オーナーと会話しているなかで、違和感を感じる出来事が…。

かすかな違和感

「県内に3店舗も出されてるなんて、すごいですね。」

そう水を向けると、太陽のように明るく輝いていたオーナーの顔が、さっと曇りました。
数秒、沈黙が続き…。

「実は…B店舗は出店して1年なんですが、最初からずっと赤字で。今度閉店します!」

(え…?出店して1年で閉店…?)

「県内ですが2時間の距離がある店舗なので、集客のポスティングしたり様子見に行ったりできないので…。」

それは最初から分かっていたことなのでは…。という言葉が脳裏をかすめますが、わたしは経営などしたことがないド素人。疑問を持つような権利はありません。

(経営って大変なんだなあ…。)

「現在、スタッフさんは他に何名いらっしゃるのですか?ホームページには2人載っていました。」

オーナーの顔がさらに曇り、まるで水を失った花のようにうなだれてしまいました。
さっきよりさらに長い沈黙が続いた後…。
意を決したように、オーナーは顔を上げ、重い口を開きました。

実は…。数か月前、ここから車で30分ほどの距離にあるC店舗でスタッフK君による売上金横領事件が発生しまして。」

「以前も同じようなことがあり、そのときは許しましたが、今回は2度目だったので退職してもらいました。」

「ただ、K君を信じている別のスタッフN子さんと意見が対立してしまって。N子さんも来月自主的に辞めることになりました。」

お、横領…!?

ドラマ以外で横領って、現実にあるの…?

わたしの目の前で、一体何が起きているのか…。

すぐには事態を飲み込めませんでした。

まとめると、こうです。
A店舗
オーナー常駐。もう一人スタッフY君がいたが、自衛隊になりたいとのことで先日退職済み。わたしが応募したのはココ。


B店舗
A店舗から2時間かかる距離にある店舗。1年前に開店したが、ポスティングしたり様子を見に行ったりできずずっと赤字が続いているため閉店を決めたとのこと。T氏という男性スタッフが働いているが、まだ閉店することは彼に告げていないとのこと。

C店舗
A店舗から車で30分ほどの距離にある店舗。数か月前、スタッフのK君による2度目の売上金横領事件が発生し、クビにした。K君を信じているスタッフのN子さんとオーナーは完全に対立。N子さんはあと1カ月後に退職予定。

Y君→自衛隊になりたいと先月退職済み
K君→横領でクビ
N子さん→オーナーにぶち切れて退職予定
T氏→現在も勤務しているが近々オーナーから閉店を告げられ職を追われる予定

……….!!!!!!!!!!?????

え…?

つまり、スタッフ、誰もいません!!!
来月には、最近まで4人いたスタッフが全員いなくなります!!!

(だ、大丈夫なのかな、このジム…。)

一抹の不安が胸をよぎります。
でも…。
オーナーは、いち応募者であるわたしに、こうして正直に話してくれた。(わたしが突っ込まなければ、黙ってたとおもうけど)


正直、少しひっかる部分はありました。
今思えば、ここが最初の分岐点だったのかもしれません。
でもわたしはこのとき、むしろこう思ったのです。

「隠さず話してくれるなんて、誠実な人だな。素晴らしい人格者だ。」

こうして、その場で採用を告げられたわたしは人生初のトレーナーとしての日々を始めることになったのです。

                                    つづく

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